七十七銀行の給与は本当に稼げない？年収実態と転職判断の基準

変わりゆく銀行業界―「安定」の幻想とは

「銀行員は安定している」そう思われていた時代は、もう過去のものかもしれません。みずほ銀行は、今後10年間で1万9000人の削減を計画しています。三井住友銀行も、店舗統廃合を加速させています。

メガバンクでさえ、この状況です。「大きすぎて潰れない」と言われていた存在が、今、大規模なリストラと店舗削減を進めている。これが意味することは何でしょうか。

地方銀行は、さらに厳しい状況に置かれているかもしれません。

「地銀トップ」の760万円は幻想──若手が直面する年功序列の壁

七十七銀行で働く人の平均年収は760万円。有価証券報告書に掲載されたこの数字は、東北最大級の地方銀行として、一定の説得力を持っています。地方都市での働き方を検討している人にとって、この数字は「安定」の象徴に映るかもしれません。

しかし、その数字の内訳を見ると、別の風景が浮かび上がります。この銀行で働く若手（20代）の実際の年収は、おおよそ443万円程度。初任給は月25万円で、そこから3年間、昇給がほぼ止まります。

同期の誰もが同じ昇給カーブを辿るわけではなく、3年ごとに実施される昇進試験の合格が、その後の給与を大きく左右します。試験に合格した同期と落ちた同期では、数年でも給与差が生じ始めます。試験運によって、同じ時期に入行した人間のポストが分かれていく。

これが、この銀行の年功序列の構造です。30代での平均年収が554万円～645万円と幅広いのも、この試験制度の影響を反映しています。合格時期が人によって異なれば、昇進スピードも変わる。

「安定した年功序列」と聞こえるものの、実態は試験という限られた機会に運が左右する仕組みになっているのです。760万円という数字は、管理職を多く含んだ全社平均です。その背景には、昇進試験を経ていくつかのハードルを越えた人たちの給与が含まれています。

一方、若い期間が長いこの銀行では、昇進枠そのものが限られているという構造的な問題があるのです。入社後、最初の数年間は月給の低さに直面し、その後の昇進試験という狭き門の中で、人生が分かれていく。見た目の平均年収と、働く人が実感する給与レベルの乖離は、決して小さくありません。

さらに問題なのが、中堅層で起きた給与体制改革です。「制度改革」という名目で、年40万円程度の年収ダウンを経験した人もいます。480万円前後まで落ちてしまうというのは、昇進後のモチベーションを著しく損なわせるものです。

表面的な平均年収の数字は、こうした実質減収の動きを隠してしまいます。

「毎年ノルマが増える」のに、地域経済は一貫して縮小している

七十七銀行で働く人が挙げる共通の悩みに、「ノルマが毎年増える」というものがあります。同時に、営業基盤となるエリアの現実は、確実に縮小しています。宮城県は、全国的な人口減少の流れから逃げられていません。

かつての成長期には考えられなかったペースで、人口が減少し続けている地域です。特に仙台市への一極集中が進む一方で、周辺部の衰退は加速しています。高齢化率も全国平均を上回るペースで上昇しており、銀行が営業対象とできる顧客層自体が、構造的に減少しているのです。

東日本大震災からの復興需要は、既に一巡しました。2011年の震災から10年以上が経過した今、その特需に頼る戦略は成り立ちません。地域経済の回復基調は限定的で、製造業・農業・観光業といった主要産業も、人口減少の中での微調整を余儀なくされています。

つまり、七十七銀行が融資を提供する企業の数自体が、年々減少しているという現実です。にもかかわらず、営業店に課せられるノルマは「年々増えている」と報告されています。減る市場の中で、増えるノルマ。

この構図は、もはや数字の積み上げではなく、営業現場への心理的圧力を高めることになっています。その背景には、支店統廃合の加速があります。人員整理を目的とした支店の統廃合により、残された支店に集約された業務量は、かつての2倍に及ぶという報告もあります。

効率化という名目で、一人当たりの負担は劇的に増加している。統廃合後の支店では、顧客対応から事務処理まで、すべてが限定された人数に降りかかっています。ノルマが増える中での業務量増加は、単なる「忙しさ」では済まない問題です。

それは、構造的な疲弊を意味しています。七十七銀行で働く人が直面しているのは、収縮する市場の中での無限の負荷増加という矛盾であるのです。これを個人の努力や工夫で解決できると考えるのは、現場の状況を過小評価しています。

10年後、この営業基盤はどうなっているのか。その先行き不透明さが、働く人の不安を増幅させています。

転勤の「理不尽さ」が女性人材を確実に失わせている

七十七銀行は、「女性活躍推進」を経営方針の一つとして掲げています。女性管理職の登用に積極的だという報道もあり、表向きは進歩的な組織に見えるかもしれません。しかし、現場の実態はその方針と大きくずれています。

この銀行の転勤サイクルは、決して少なくありません。3年に1回程度の支店異動が標準的とされており、宮城県内および東北地方全域での転勤を前提とした人事配置が行われています。転勤に伴う引越し費用は全額補助されるため、制度面では整備されているように見えます。

しかし、その背景には「理不尽だ」と感じられる転勤も多くあるとの報告があります。営業実績に基づかない異動、キャリア形成とは無関係な辞令。そうした転勤が重ねられる中で、特に女性にとっての負担は顕著です。

女性活躍推進という掛け声の裏で、「高成績営業職だけが活躍できる環境」という現実が浮かび上がります。つまり、成績が優秀な女性には昇進の道が開かれているものの、平均的な成績の女性にはその道が閉ざされたままだということです。全員に等しく開かれたキャリアではなく、限定された層への特別扱いになってしまっているのです。

転勤というライフイベントは、男女で影響が異なります。結婚・出産という人生上の大きな決断が、女性にはより強い制約として機能するからです。転勤サイクルと出産可能な年代が重なると、どちらかを選択せざるを得なくなります。

実際、この銀行の「10年後の女性継続雇用率」は45.7%です。つまり、新卒で入行した女性の半数以上が、10年以内に辞めているという現実です。男性の継続雇用率が48.8%であることと比較すれば、女性の離職率がより高いことが明確です。

この数字は、経営層が掲げる「女性活躍推進」と、現場で起きている「女性人材の流出」の著しいギャップを物語っています。表面的な制度の充実と、実運用における構造的な困難のズレが、最も優秀な女性人材を確実に失わせているのです。今後、この銀行の人材競争力が低下するとすれば、その理由の一つはここにあるでしょう。

「地銀再編は関係ない」という自信の根拠が、実は弱い

七十七銀行の経営層は、全国で相次ぐ地方銀行の経営統合に対して、「地銀再編は関係ない」と言い切っています。独力での生き残り戦略を標榜するその姿勢には、東北の地域経済への確かな手応えと、堅実経営への自信が見られます。実際、バブル期でも公的資金導入に至らず、経営危機に陥らなかった歴史は、その堅実さの証しともいえます。

しかし、その自信の根拠はどこにあるのか。市場環境の変化を見ると、その根拠は思ったより脆弱なのではないか、という疑問が生じます。全国で地方銀行の統合が加速している背景には、低金利環境下での収益圧迫と、地域経済の急速な衰退があります。

単独経営で生き残るためには、それ以上に確かな経営基盤と、市場での競争優位性が必要です。七十七銀行が依存する宮城県は、全国的な人口減少トレンドの中に在ります。その中で、メガバンク、他地方銀行、ネット銀行、フィンテック企業との競争はますます激化しています。

かつての地域独占的な立場は、急速に侵食されつつあります。さらに注視すべきは、この銀行の格付けの動向です。格付け機関による評価は、JCR格付けで「AA／安定的」とされていますが、その過程を見ると「ネガティブ」から「安定的」への変更が2021～2022年にかけてなされています。

つまり、つい数年前までは、格付けの見通しが「ネガティブ」だったということです。この不安定な推移は、経営層自身も環境変化への対応を試行錯誤中であることを示唆しています。「地銀再編は関係ない」という言葉の背景には、むしろ「再編に乗じて吸収されたくない」「独力で生き残りたい」という願望が込められているのではないでしょうか。

それ自体は経営姿勢として理解できますが、市場環境の急速な変化に対して、その戦略が十分に機能しているかは別の問題です。堅実経営という過去の成功体験に依存しながら、急速に変わる市場に対応できるのか。その答えは、経営層自身も確たるものを持っていないのかもしれません。

格付けの不安定推移は、その不確実性を象徴しています。単独維持を標榜する経営戦略が、10年後にも通用しているかは、正直なところ、不透明なのです。七十七銀行で働く人が感じる漠然とした不安は、決して無根拠ではありません。

それは、市場環境の確実な変化と、それに対する対応戦略の不透明さから生まれているのです。「安定」と思って入行した銀行の先行きが、実は確実ではない。その気づきが、働く人の心に留まり続けているのではないでしょうか。

では、どうすればいいのか？

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