ドイツ銀行をやめたい人が増えている理由―働く人の本音を聞いてみた

変わりゆく銀行業界―「安定」の幻想とは

「銀行員は安定している」そう思われていた時代は、もう過去のものかもしれません。みずほ銀行は、今後10年間で1万9000人の削減を計画しています。三井住友銀行も、店舗統廃合を加速させています。

メガバンクでさえ、この状況です。「大きすぎて潰れない」と言われていた存在が、今、大規模なリストラと店舗削減を進めている。これが意味することは何でしょうか。

地方銀行は、さらに厳しい状況に置かれているかもしれません。

150年の歴史を持つドイツ銀行、なぜ今、辞めたい人が増えているのか

1870年の創立以来、ドイツ銀行は日本の金融シーンで一定の存在感を保ってきた。1872年には横浜に海外初の拠点を開設し、日本との付き合いは150年以上に及ぶ。その間、大手銀行としての信用と安定性は揺るがぬものとされてきた。

しかし、ここ数年、その銀行で働く人たちから漏れ聞こえるのは、「辞めたい」という声だ。一般的には「大手金融機関は安定している」というイメージが強いため、この違和感はなかなか表に出にくい。だから、その銀行で働く人たちは、心の中で一人、「本当に辞めたいけど、辞めていいのだろうか」と葛藤している。

その葛藤は、決して個人の問題ではない。この銀行の構造的な変化が、働く人たちに深刻な影響を与えているからだ。

世界規模の人員削減戦略――あなたの支店も例外ではない

この5年で約500店舗から大幅削減、日本でも東京拠点1箇所に集約された現実

ドイツ銀行のグローバルな人員削減戦略は、すでに現実のものとなっている。本国ドイツだけを見ても、この5年間で約500店舗から大幅に削減され、現在は約400店舗にまで縮小している。それは単なる「効率化」ではなく、ビジネスモデルそのものの根本的な転換を意味している。

日本でも同じことが起きている。かつてドイツ銀行は日本国内に複数の支店を展開していた。しかし現在、東京の麻布台ヒルズに移転した本社拠点がほぼ唯一の主要拠点となっている。

247名体制という限定的な人員規模の中で、その銀行で働く人たちはグローバルな業務をこなしている。

グローバル1.8万人削減計画の波は、いつあなたの部署に来るか

2019年、ドイツ銀行は世界規模で1.8万人の削減を発表した。その波は、日本にも確実に押し寄せている。削減の対象は部門、拠点、職種を選ばない。

営業職でも管理職でも、その部署で生み出す収益や効率性が常に問われる。この状況の中で、働く人が感じるのは「いつ自分の部署に来るのか」という不安である。 それは単なる失業への恐れではなく、より根本的な問題だ。

昇進の枠が減る。同じ業務量を少ない人員でこなさなければならない。競争が激化し、部門間での「椅子取りゲーム」が加速する。

支店数が減り、ポストが減り、しかし仕事は減らない。その矛盾の中で、働く人たちは日々、自分たちの部署や職務の「将来」を見つめている。辞めたいと思うのは、その不安の現れなのだ。

「十分な財務基盤」と「昼休憩も取れない現場」――建前と本音のギャップ

3年連続黒字達成なのに、なぜ従業員の疲弊は止まらないのか

ドイツ銀行の公式発表では、「十分な資本と流動性に支えられた強力な財務基盤」という言葉が並ぶ。実際、2023年は3年連続で黒字を達成し、経営状況は一見すると堅調に見える。投資家向けのリリースでは、その銀行の「安定性」が強調される。

だが、その黒字が生み出される現場では、別の現実が広がっている。働く人たちの話を聞くと、浮かぶのは長時間労働と過度なノルマという言葉だ。「19時には終業できるはずなのに、実際には22時、23時まで働いている」「昼休憩は取れないことがほとんど」という声も少なくない。

財務基盤がどれだけ強かろうと、その強さの源泉は、働く人たちの疲弊の上に成り立っているのだ。

コーポレート・バンクの純収益35%増は、誰の働きで生み出されたのか

2023年第2四半期、ドイツ銀行のコーポレート・バンク部門の純収益は35%増加し、開始以来の最高額20億ユーロに到達した。それは素晴らしい成果として扱われる。投資家は満足する。

経営陣も誇る。だが、その数字の背景を考えてみよう。営業人員は減る。

支店は集約される。日本では247名が世界規模の業務を担う。その中で、35%の収益増をどうやって生み出すのか。

それは、一人あたりの業務量が劇的に増加したことを意味する。つまり、その数字は、働く人たちが無理をしている証だ。 効率化の掛け声の下、少ない人員でより多くを売り、より高い目標を追わされる毎日。

その中で、疲弊は深まる。辞めたいと思うのは、そうした現場の現実に対する、むしろ健全な感覚なのだ。

人口減少と金融再編――10年後、あなたの営業先は存在するか

預金が減り、貸出先が消える時代に、ノルマだけが据え置かれる矛盾

ドイツ銀行が営業展開する地域の経済環境は、確実に変わっている。日本全体の人口減少は、単なる「数字」ではなく、その銀行の営業基盤そのものを蝕んでいる。預金は減る。

貸出先も消える。地域経済が縮小すれば、金融需要も必然的に減退する。ここで理不尽に感じるのは、営業ノルマの据え置きだ。

営業エリアの市場規模が確実に縮小しているのに、売上目標や融資実績の目標は引き下げられない、あるいは引き下げ幅が小さい。営業担当者の立場から見れば、これは「なくなっていく市場で、増え続ける責任を負わされている」ことになる。地域経済の趨勢と、銀行の目標設定にズレがあるのだ。

その矛盾は、営業現場に大きなストレスをもたらす。10年後、取引先は存在するのか。そもそも自分たちの支店は存在するのか。

そうした漠然とした不安の中で、営業目標だけは掲げられ続ける。辞めたいと思うのは、その矛盾に気づいているからではないか。 市場が明らかに縮小する中で、個人の努力だけで目標を達成することは不可能だ。

その不可能なことを求められ続ける毎日。それは、働く人の人生設計そのものを揺るがす。

日本拠点247名体制の薄さ――ジョブローテーションと転勤で人生設計が立たない

麻布台ヒルズへの移転、組織変更――変わることばかりで、安定は幻想

ドイツ銀行の日本拠点は、247名という限定的な体制で運営されている。その規模で、グローバル投資銀行としての業務を全て担う必要がある。結果として、働く人たちはジョブローテーションと組織改編の連続に直面する。

直近では麻布台ヒルズへの移転も実施された。組織変更は何度も繰り返されている。表面的には「効率化」や「ビジネスモデル改革」という名目だが、働く人からすれば、それは「不安定性の増加」そのものだ。

昨年までのキャリアパスが、突然変わる。これまでの専門性が、新しい部門では活かせない。そうした状況が何度も繰り返される。

正社員としての「安定」を求めてドイツ銀行に入った人たちにとって、この頻繁な変化は大きなストレスになる。だからこそ、「安定を求めて入った銀行が、こんなに不安定なわけがない」という戸惑いと、「だから辞めたいんだ」という納得が、同時に生まれる。3年ごとの転勤も珍しくない。

子どもの教育、配偶者のキャリア、親の介護―――人生には銀行の組織変更では対応できない現実がある。その現実と、銀行の人事制度のズレは、年々大きくなっている。「安定」を掲げる銀行で働きながら、実際には常に不安定さと向き合う毎日。

その矛盾の中で、働く人が「本当にこのままでいいのか」と問い始めるのは、自然な流れだ。辞めたいと思うのは、現実を直視しているからこそなのだ。

ドイツ銀行で働く人たちが「辞めたい」と感じるのは、個人の問題ではなく、この銀行が抱える構造的な課題に直面しているからだ。グローバルな人員削減計画の波。黒字という成果の裏にある現場の疲弊。

縮小する市場での据え置かれたノルマ。頻繁な組織変更と転勤。これらの問題の中にいれば、「辞めたい」と思うのは弱さではなく、現実を見つめる健全な感覚である。

そして、その銀行で働く多くの人が、同じことを考えている。あなたは決して一人ではない。その気づきが、次の選択を支えるはずだ。

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